就職氷河期にメーカー全滅。それでもエンジニアになった私の社会人生活の始まり

私は小学生の頃から、大型電気店に行くのが好きでした。
テレビ、オーディオ、ゲーム機。新しい機能を搭載した製品が出るたびに、売り場を見て回ったり、カタログを眺めたりするだけでワクワクしたものです。
もちろん、欲しいものを何でも買ってもらえるわけではありません。
それでも、新しい電化製品を見ること自体が楽しかった。
そのうち、興味は少しずつ変わっていきました。
「これは、どういう原理で動いているんだろう?」
「中身はどういう構造になっているんだろう?」
そして最後には、
「自分でも作ってみたい」
と思うようになりました。
その気持ちから大学では情報系へ進み、卒業後はものづくりに関わる仕事をしたいと考えるようになりました。
ところが、私の社会人生活は、思い描いていた形では始まりませんでした。
希望していたメーカーには入れなかったからです。
それでも振り返ってみると、そこで終わらなかったことが今の私につながっています。
私はこの経験から、キャリアは最初にどの会社へ入ったかだけで決まるものではないと考えるようになりました。
大切なのは、自分が本当にやりたいことを考え、その時に選べる道で経験を積み重ねていくことなのだと思います。
「電化製品を作りたいなら、メーカーに入るしかない」と思っていた
学生時代の私は、とても単純に考えていました。
電化製品を作りたい。
電化製品を作っているのは有名な電機メーカー。
だったら、メーカーに就職すればいい。
今になって考えれば、製品は一つの会社だけで作られているわけではありません。
メーカーだけでなく、さまざまな会社や技術者が関わり、一つの製品が作られています。
しかし、社会をほとんど知らない学生だった私には、そこまで見えていませんでした。
「ものづくりをしたい=メーカーに入る」
そう考えて就職活動をしていました。
熱意はあった。でも「なぜその会社なのか」が弱かった
当時の私は、電化製品が本当に好きでした。
ものづくりがしたいという気持ちも強かったと思います。
それでも、希望したメーカーには採用されませんでした。
その理由について、当時の私にはよく分かっていなかったと思います。
しかし、その後、自分自身が採用に関わるようになって、当時の自分に足りなかったものが少し見えるようになりました。
採用する側として応募者と話していると、
「なぜ、この会社で働きたいのだろう?」
と感じることがあります。
志望理由を聞いていても、
「それなら、うちの会社でなくてもいいのでは?」
と思うことがあるからです。
振り返れば、当時の私も同じでした。
「電化製品が好きです」
「ものづくりがしたいです」
熱意はありました。
でも、それだけなら同じように考える学生はたくさんいます。
その会社の製品のどこが好きなのか。何に魅力を感じているのか。自分ならどんな製品を作りたいのか。
そこまで十分に、自分の言葉で語れていなかったのでしょう。
今、採用する立場になった私なら、自社の製品や仕事をきちんと調べ、
「私はこの部分が好きです」
「ここを、こんなふうに良くしてみたいです」
と具体的に話してくれる人には、強い関心や熱意を感じます。
当時の私は、ものづくりへの思いはあっても、
「なぜ、その会社なのか」
まで考え切れていなかったのだと思います。
メーカーに入ることと、ものづくりをすることは同じではなかった
そんな就職活動の中で、私は「ものづくりに携われる」という内容にひかれ、ある会社の説明会へ参加しました。
そこで初めて、技術派遣という働き方を知りました。
そして、その説明会で言われたことを今でも覚えています。
メーカーに入ったからといって、必ずしも製品開発の仕事に配属されるとは限らない。
適性によっては、営業や製造、その他の部門へ配属される可能性もある。
私にとっては、目から鱗が落ちるような話でした。
考えてみれば、その通りです。
新卒で社会人経験も開発経験もない自分が、
「メーカーに入れば当然、開発の仕事ができる」
となぜ思い込んでいたのでしょうか。
ここで初めて、
「メーカーに入ること」と「ものづくりに携わること」は同じではない
と気づきました。
私がやりたかったのは、有名な会社の社員になることではありませんでした。
子どもの頃から憧れていた電化製品を、自分でも作ってみたかった。
ものづくりに携わりたかった。
それが本来の目的だったはずです。
このことに気づいてから、私はメーカーへの応募をきっぱりやめ、技術派遣会社の採用試験を受けました。
今考えると、これが私のキャリアで最初に経験した、
「手段と目的を分けて考える」
という決断だったのかもしれません。
社会人生活は、想像以上に恵まれた環境から始まった

そして私は、本当に運が良かったと思っています。
社会人になって最初に派遣されたのは、誰もが知る日本を代表する電気メーカーの開発現場でした。
そこには優れたエンジニアがたくさんいました。
当然、最初から自分に十分な技術力があったわけではありません。
周囲のエンジニアから学びながら、緊張感のある環境の中で仕事をしました。
学生だった自分が、本当に製品開発の現場にいる。
その環境で実際にものを作り、経験を積んでいく。
私はそこで少しずつエンジニアとして成長していきました。
「メーカーに入れなかった」
という事実だけを見れば、当初思い描いていた就職とは違います。
しかし結果的には、私が本当にやりたかった「ものづくり」に携わることができました。
キャリアは、最初の会社名だけを見ても分からないものだと今は思います。
楽しいだけではなかった。数年ごとに人間関係を作り直した
もちろん、良いことばかりではありませんでした。
私の場合、数年ほどすると別のプロジェクトへ移ることがありました。
新しいプロジェクトに入れば、仕事の内容だけでなく、人間関係もまた一から作らなければなりません。
私はもともとコミュニケーションが得意な方ではありません。
知らない人たちの中へ入り、また関係を作っていくことにはストレスがありました。
慣れてきた頃に環境が変わる。
そして、また新しい技術、新しい仕事、新しい人たちに向き合う。
当時は大変でした。
でも今振り返ると、その緊張感が自分を緩ませず、成長させてくれた面もあったと感じています。
同じ環境で、自分が分かる仕事だけを続けていたら、今とは違う自分になっていたかもしれません。
仕様書には書かれていない「答えのない問い」がある
仕事を始めた頃の私は、エンジニアという仕事を、
「仕様書に書かれているものを正しく作る仕事」
くらいに考えていた部分があったと思います。
しかし、実際の製品開発では、それだけではありませんでした。
今でも私が悩むテーマの一つが、納期と品質のバランスです。
私は、納期は信頼に関わる重要なものだと考えています。
一方で、さらに品質を高めることで、もっと良い製品になり、それが販売にも良い影響を与えるかもしれません。
では、どこまで品質を追求するのか。
どこで決断するのか。
いつでも使える絶対的な答えがあるわけではありません。
私はこうした問題について、上司と何度も話し合いました。
答えがある問題なら、勉強して答えを探せます。
仕様書に書かれていることなら、それを実現すればよい。
しかし仕事では、
「何を優先するのか」
「どこまで品質を追求するのか」
「いつ決断するのか」
といった、答えが一つではない問題にも向き合わなければなりません。
私は仕事を通じて、
答えのない問いを考え続けることも、エンジニアに必要な力なのだ
と学びました。
そして私は今でも、こうした問題に悩みます。
経験を積めば、何でも迷わず判断できるようになるわけではありません。
むしろ経験を積むほど、一つの判断がさまざまなところへ影響することが見えてきます。
だからこそ、簡単に答えを出せないことも増えていくのかもしれません。
自分が関わった製品を、大型電気店で見る日が来た

製品がリリースされると、私は大型電気店へ行きました。
自分たちが関わった製品が、実際に店頭へ並んでいる。
それを眺めていると、とても誇らしい気持ちになりました。
小学生の頃、私は大型電気店へ行き、新しい電化製品を見ながらワクワクしていました。
「どうやって動いているんだろう」
「自分でも作ってみたい」
そんなことを考えていた子どもが、社会人になり、自分が開発に関わった製品を同じように売り場で眺めている。
振り返ると、不思議なものです。
私は店頭で製品を見るだけではなく、販売員の方に、
「この製品はどうですか?」
と聞くこともありました。
当時の私には、今のSNSのように一般ユーザーの反応を簡単に知る手段がありませんでした。
販売の現場で多くの製品を見ている人が、自分たちの製品をどう評価しているのか。
良い意見も、厳しい意見も聞きました。
それがモチベーションになりました。
特に、販売のプロから良い評価を聞けたときは、
「自分たちは良いものを作れたのかもしれない」
とうれしく感じたものです。
今ではSNSなどを通じて、製品に対する多くの反応を見ることができます。
それでも私は、顔を合わせて直接聞く販売員の意見には、今でも特別な価値を感じています。
さまざまな製品を実際に見て、お客様へ説明している人が、自分の言葉で話してくれる。
そういう意見は、私にとって貴重なものです。
若い頃の自分に言うなら「苦労は買ってでもしろ」

もし今の私が、社会人になったばかりの自分に一つだけ伝えるなら、
「苦労は買ってでもしろ」
と言うと思います。
今の時代には、少し古く聞こえる言葉かもしれません。
ただし、ブラックな環境で我慢し続けろという意味ではありません。
理不尽なことに耐え続けることが成長だとは思いません。
私が言いたいのは、
今の自分には少し難しいことに、自分から挑んでみる
ということです。
経験したことのない仕事。
知らない技術。
新しい人間関係。
簡単には答えが出ない問題。
そうした、今の自分より少し高いハードルに向き合う。
当然、苦しいこともあります。
うまくいかないこともあります。
でも振り返ると、その一つ一つが、自分のできることを増やしてくれました。
今の自分の根幹には、若い頃にそうした困難へ向き合った経験があると感じています。
キャリアは、最初の会社だけでは決まらない
私は、希望していたメーカーには入れませんでした。
しかし、その過程で、
「メーカーに入ること」と「ものづくりをすること」は同じではない
と気づきました。
そして、その時の自分に選べる道から、ものづくりの世界へ入りました。
そこで優れたエンジニアに出会い、技術を学び、人間関係に悩み、答えのない問題について考え、自分が関わった製品が店頭へ並ぶ喜びを知りました。
キャリアは、最初にどこへ入ったかだけで決まるものではないと思います。
大切なのは、
自分は本当は何をしたいのか。
それを考え、その時に選べる道で、一つずつ経験を積み重ねること。
私の場合、それがエンジニアとしての社会人生活の始まりでした。
そして約10年後、私はもう一度、
「このままでいいのか?」
と考えることになります。
その話は、また別の記事で書きたいと思います。
あなたが本当にやりたいことは何でしょうか
会社名。
役職。
職種。
私たちはキャリアを考えるとき、どうしても分かりやすいものに目を向けがちです。
でも、それらは目的ではなく、何かを実現するための手段なのかもしれません。
私にとって「メーカーに入りたい」という思いの奥にあったのは、
「ものづくりがしたい」
という気持ちでした。
あなたの場合はどうでしょうか。
その会社に入りたいのでしょうか。
その役職になりたいのでしょうか。
それとも、その先で実現したい何かがあるのでしょうか。
今日の一歩
今の会社名や役職はいったん横に置いて、
「自分は仕事を通じて、本当は何をやりたいのか」
を一つだけ書き出してみてください。
すぐに明確な答えが出なくても構いません。
手段と目的を一度分けて考えてみること。
それが、次のキャリアを考える小さな一歩になるかもしれません。
