エンジニアから管理職になって分かった「人を育てる」という仕事

管理職になったばかりの頃、私はマネジメントとは「進捗を管理すること」だと思っていました。
決まったファイルに各自の進捗を書き、毎週みんなで集まって報告会をする。
問題はないか。
スケジュール通りに進んでいるか。
遅れている仕事はないか。
それを確認して、チームとして成果を出す。
当時の私は、それが管理職の仕事だと思っていました。
正直に言えば、「人を育てる」という意識はそれほど強くありませんでした。
ところが、毎週同じ形式で報告会を繰り返しているうちに、少しずつ疑問を感じるようになりました。
これは、本当にマネジメントなのだろうか。
進捗を確認することは必要です。
しかし、決められたファイルを更新し、毎週同じ質問を繰り返すだけなら、それは管理というより確認作業ではないか。
そんな違和感が、私のマネジメントに対する考え方を変えるきっかけになりました。
今の私は、こう考えています。
マネジメントの中心は、人を育てることにある。
これは、これまでの業務経験やマネジメントの失敗、そして年間130冊ほどの本を読む中でたどり着いた、今のところの私なりの答えです。
- 管理職になった頃、仕事は「進捗管理」だと思っていた
- 毎週の進捗報告に「本当に意味があるのか」と疑問を持った
- マネジメントの本を読み漁って、結局たどり着いたのは「人を見ること」
- 変化する環境では、現状維持だけでは足りない
- だから私は、マネジメントの中心を「人を育てること」だと考えるようになった
- 人を育てるうえで、私が最も重視しているのは「主体性」
- すぐに答えを教えない。本人が「自分で気づいた」状態をつくる
- 人によって育て方は変える。そのために「人を見る」
- 目標が明確になると、人は動き始めた
- 人が育つと、組織は管理職が細かく介入しなくても動き始める
- 1on1を続ける中で、キャリアへの不満にも変化があった
- まとめ|人を育てるなら、まず管理職自身が変わる
管理職になった頃、仕事は「進捗管理」だと思っていた
エンジニアとして仕事をしていた頃は、自分の仕事をきちんと完成させることが重要でした。
納期を守る。
品質を上げる。
問題を解決する。
自分が担当する仕事の成果が、そのまま自分の評価につながります。
そのため、管理職になったときも、その延長線上で考えていたのだと思います。
自分で作業をする代わりに、今度はチーム全体の仕事を管理する。
各メンバーの進捗を確認し、問題があれば対処する。
そしてスケジュール通りに成果を出す。
もちろん、これも管理職に必要な仕事です。
今でも進捗を見る必要はありますし、問題を把握する責任もあります。
ただ、当時の私は、それだけで十分だと思っていました。
管理職の仕事を、かなり狭く捉えていたのだと思います。
毎週の進捗報告に「本当に意味があるのか」と疑問を持った

私の組織では、決められたファイルに進捗を書き、毎週集まって報告するというやり方を続けていました。
毎週同じような項目を確認し、各担当者が順番に説明する。
最初は、それが普通だと思っていました。
前からそうしていたからです。
ところが、同じことを繰り返しているうちに、
「これは本当に意味があるのだろうか」
と感じ始めました。
もちろん、進捗を共有すること自体に意味がないわけではありません。
問題だったのは、いつの間にか「進捗を確認すること」そのものが仕事になっていたことです。
会議を開いた。
報告を聞いた。
進捗表を更新した。
それで管理した気になっていないか。
私は次第に、
「これは本当にマネジメントなのか?」
と考えるようになりました。
そこで、マネジメントやリーダーシップに関する本を読み始めました。
もともと読書は好きでしたが、この頃から特に関連する本をかなり読み漁りました。
マネジメントの本を読み漁って、結局たどり着いたのは「人を見ること」
マネジメントやリーダーシップに関する本には、さまざまな考え方が書かれています。
組織論。
モチベーション。
評価。
目標設定。
リーダーシップ。
心理学。
コミュニケーション。
本によって使われている言葉も、主張も違います。
それでも、たくさん読むうちに、私はある共通点を感じるようになりました。
結局のところ、
人を見ること。
そこに行き着くのではないか、と。
組織は、人からできています。
組織図や制度が仕事をするわけではありません。
実際に考え、判断し、行動するのは一人ひとりの人です。
ならば、その一人ひとりを見ることなく、組織だけを強くすることはできない。
これは、私が長くエンジニアを続ける中でたどり着いた「技術より人を見ろ」という考え方ともつながっています。
技術はもちろん重要です。
ただ、管理職になれば、自分が技術的に優秀であること以上に、そこにいる人たちの力をどう引き出すかが重要になります。
私が「人を見ること」を大切にするようになった背景については、
「技術より人を見ろ」20年以上エンジニアをしてたどり着いた仕事の教訓
でも詳しく書いています。
変化する環境では、現状維持だけでは足りない
当時の私のチームには、優秀なメンバーが多くいました。
大きな問題もなく、十分に成果を出していました。
だから私は、どこかで、
「この状態を維持できれば十分だ」
と思っていました。
ところが、あるとき気づきました。
こちらが何も変わらなくても、周りは変わっています。
他の組織は成長します。
他社も新しい取り組みを始めます。
技術は進化します。
仕事のやり方も変わります。
技術や周囲の組織が変化し続ける環境では、同じことを続けるだけでは、相対的には少しずつ後ろに下がっていきます。
つまり、
現状を維持するためにも、成長し続ける必要がある。
そう感じました。
これは、私にとってかなり大きな気づきでした。
組織として今の力を保つためにも、一人ひとりが成長し続ける必要がある。
ましてや、より良い組織を作りたいのであれば、なおさらです。
そこで私の中で、
管理すること以上に、育てることが重要なのではないか
という考えが強くなっていきました。
だから私は、マネジメントの中心を「人を育てること」だと考えるようになった
組織の力は、個人の力だけで決まるものではありません。
人間関係や役割分担、情報共有によって、組織の力は大きくも小さくもなります。
それでも、その土台にあるのは一人ひとりです。
ならば、個を育てる。
それぞれが自分の役割で力を発揮できるようにする。
自分で考え、自分で動ける人を増やす。
そうして、筋肉質なチームを作る。
私がここでいう「筋肉質なチーム」とは、管理職が細かく指示しなくても、一人ひとりが自分で考え、自分の役割を果たせるチームです。
それが、今の私が考えるマネジメントの中心です。
ただし、ここでいう「育てる」は、知識を一方的に教えることではありません。
私が最も重視しているのは、主体性です。
以前の私は、難しい仕事ほど自分で抱えていました。そこから仕事を手放すようになった経緯は、
「自分がやった方が早い」をやめた理由
で書いています。
人を育てるうえで、私が最も重視しているのは「主体性」
私は、主体性がある人は成長しやすいと感じています。
なぜなら、主体性がある人は仕事を自分事として捉えるからです。
たとえば、上司が部下にあることを質問したとします。
一人は、
「わかりません」
と答える。
もう一人は、
「わかりません。確認できる人に聞いてみます」
と答える。
どちらも、その場では答えを知りません。
知識量だけを見れば同じです。
しかし、その後の行動は大きく違います。
後者は、
「自分に何ができるか」
を考えています。
私は、こうした姿勢が成長につながると考えています。
そのため、普段から、
「これを自分事として捉えるなら、どう動く?」
と問いかけます。
ときには、本人の担当外だと分かっていることを、あえて聞くこともあります。
ただし、知識を試したいわけではありません。
「自分の担当ではないので分かりません」で終わるのではなく、
「では、誰に確認すれば前に進められるか」
まで考えてほしいからです。
上司が求めているのは、必ずしも答えそのものではありません。
答えを持っていないときに、自分で次の行動を考えられるか。
私はそこを見ています。
すぐに答えを教えない。本人が「自分で気づいた」状態をつくる
主体性を育てたいのであれば、上司が何でも先回りして答えてしまうのは逆効果だと考えています。
私は基本的に、失敗してもよいと思っています。
失敗は貴重な経験です。
実際に失敗したからこそ分かることもたくさんあります。
もちろん、何でも失敗させるわけではありません。
スケジュール上ここでは失敗できない。
大きな影響が出る。
そういう場合には、事前に議論の場を設けます。
ただ、そのときもできるだけ、最初から答えや直接的な助言はしません。
少し回りくどくても、質問を重ねます。
本人が考え、本人が違和感に気づき、本人が修正する。
私はその形を大事にしています。
なぜなら、
上司に修正された仕事ではなく、自分で気づいて修正した仕事にしてほしいからです。
上司から、
「そこは違う。こうしなさい」
と言われてそのまま修正すると、本人の中で「自分の仕事」という感覚が薄れやすいと感じています。
「上司がそう言ったからやった」
という気持ちが生まれやすくなる。
一方で、自分で気づいて自分で直したのであれば、最後まで自分の仕事です。
責任感も残ります。
私は、結果を修正すること以上に、主体性を途切れさせないことを大切にしています。
仕事をどこまで任せ、どの失敗まで経験してもらうかについては、
部下に仕事を任せる方法
で詳しく書いています。
人によって育て方は変える。そのために「人を見る」

育成方法は、全員同じではありません。
人によって任せ方も、目標も変えます。
人によって任せ方は変える。そのために、人を見る。
性格も違います。
得意なことも違います。
将来どうなりたいかも違います。
仕事に何を求めるかも、人それぞれです。
専門性を高めてスペシャリストになりたい人もいます。
好きな仕事を続けたい人もいます。
出世したい人もいます。
仕事以外の生活を優先し、仕事には必要以上のものを求めない人もいます。
どれが正しい、間違っているという話ではありません。
本人が何を望むかは、それぞれです。
ただ、私は一つだけ共通していることがあると思っています。
少なくとも仕事の中で何かを望むのであれば、その実現には何らかの成長が必要です。
好きな仕事を続けるにしても、専門家になるにしても、管理職を目指すにしても、成長せずに選択肢を広げることは難しい。
だから私は、本人の希望に合った目標を立ててもらいます。
そして、
「その目標に近づくために、何をするか」
を一緒に話します。
目標を立てて終わりではありません。
定期的に振り返り、できたこと、できなかったことを確認する。
必要なら目標や行動を修正する。
目標面談と振り返り面談を繰り返すことで、少しずつ成長を促していきます。
目標が明確になると、人は動き始めた
こうした取り組みを続ける中で、変化が見えるようになりました。
本人の目標が明確になると、本人の行動だけでなく、周囲からの見られ方も変わってきます。
「この人は次のリーダーを目指している」
「この人はこの技術を専門にしたい」
そうした方向性が見えると、周囲もその人に期待するようになります。
任される仕事も変わります。
相談される内容も変わります。
本人自身も、
「自分はこの役割を目指している」
という意識を持ちやすくなります。
私の組織では、主体性が強い人ほど、周囲から信頼されるケースが多くありました。
自分の担当だけではなく、周囲を見ます。
問題があれば動きます。
分からないことがあれば、分かる人を探します。
そうした行動を繰り返すことで、人とのつながりも広がっていきます。
私が「人間マップ」と呼んでいる、人との関係の地図も自然と広がっていきます。
私が「人間マップ」と呼んでいる考え方については、
職場の『人間マップ』を作る
の記事で詳しく紹介しています。
その結果、次世代のリーダーを任される人も出てきました。
一方で、技術に特化して専門性を高める人もいます。
大切なのは、全員を同じ方向へ育てることではありません。
本人が目指す方向を明確にし、その方向へ成長できる機会を作ること。
私は、それが育成だと考えています。
人が育つと、組織は管理職が細かく介入しなくても動き始める
人が育つと、組織の動き方も変わります。
私が細かく、
「これはどうなっている?」
「次は何をする?」
と確認しなくても、現場で考えて動く人が増えていきました。
リーダーが育ち、それぞれのチームが主体的に成果を出すようになると、私が直接手を出す仕事も減っていきました。
そこで初めて、
「管理職が忙しいこと」と「組織が強いこと」は同じではない
と気づきました。
むしろ、人が育ち、自分たちで動けるようになれば、管理職には余白ができます。
その余白で、人を見る。
考える。
変化に気づく。
次の人を育てる。
この経験が、後に私が「組織で一番暇な管理職」を目指すようになった理由にもつながっています。
人が育ち、組織が自走するようになった経験が、
私が「組織で一番暇な管理職」を目指すようになった理由
で詳しく書いています。
1on1を続ける中で、キャリアへの不満にも変化があった

1on1や目標面談を続ける中で、キャリアに関する話にも変化がありました。
少なくとも私の組織では、その時期以降、
「この先どうなれるのか分からない」
「自分は何を期待されているのか分からない」
といったキャリアパスへの不満を聞くことが大きく減りました。
次世代のリーダーを目指す人。
技術に特化して専門性を高める人。
それぞれが、自分の目標や役割を認識するようになりました。
また、私が見ていた範囲では、キャリアへの不満を理由に離職する人も見られなくなりました。
もちろん、これが育成や1on1だけの効果だと断定するつもりはありません。
人が会社を辞める理由は、一つではないからです。
それでも、本人が自分の進む方向を理解し、上司と話し、周囲からも役割を認められることは、不安を減らす一つの要因にはなったと感じています。
まとめ|人を育てるなら、まず管理職自身が変わる
管理職になったばかりの頃の私は、進捗を管理し、チームとして成果を出すことが自分の仕事だと思っていました。
その考え自体が間違っていたわけではありません。
ただ、それだけでは足りませんでした。
進捗を見るだけでは、人は育ちません。
人を見る。
本人がどうなりたいのかを知る。
自分で考える機会を渡す。
すぐに答えを教えず、自分で気づくまで待つ。
失敗から学ぶ機会を奪わない。
そうして一人ひとりが成長すると、組織の動き方まで変わっていきました。
そして今、管理職になったばかりの頃の自分に一言伝えるなら、こう言います。
変える勇気を持て!
前任者がやっていたから。
昔からこのやり方だから。
他の管理職もそうしているから。
そんな理由だけで、そのまま続ける必要はありません。
人を育てるためには、部下だけに変化を求めるのではなく、まず管理職自身がこれまでのやり方を疑い、変わる必要があります。
本当にそれが正しいのか。
今も意味があるのか。
他の組織ではどうしているのか。
他社ではどうしているのか。
書籍ではどう考えられているのか。
しっかり学び、自分で考える。
長く続いてきた風習を変えることには勇気がいります。
「自分のやり方で本当に大丈夫なのか」
と不安になることもあります。
それでも、学び、考えたうえで正しいと思うのであれば、自分を信じて変えていく。
それも管理職の仕事だと思っています。
私自身、最初から「マネジメントの中心は人を育てることだ」と考えていたわけではありません。
進捗管理から始まり、疑問を持ち、本を読み、失敗し、部下を見て、少しずつ考え方が変わってきました。
今の結論も、これからの経験によって変わるかもしれません。
それでも今は、
組織を強くしたいなら、まず人を育てる。
そう考えています。
今日の一歩

あなたが管理職として、
「昔からこうだから」
という理由だけで続けていることを、一つ書き出してみてください。
そして、自分に問いかけてみてください。
それは今でも、本当に必要でしょうか。



