職場の「人間マップ」を作る|仕事は誰に頼るかで変わる

2010年、私は技術派遣からメーカーへ転職しました。
新しい会社で働き始めるにあたり、社長から歓迎の言葉をいただきました。
その中で、今でも印象に残っている言葉があります。
「まずは地図を作りなさい。」
当時の私は、その言葉をこう受け取りました。
まだ知らない人ばかりの職場で、慣れない風土の中で開発業務をしていく。
だからこそ、いち早くキーマンを把握し、自分の仕事を最後までやり切れるようになりなさい。
そういう意味なのだろう、と。
それから少しずつ開発業務にも慣れ、任される仕事も増えていきました。
やがてマネジメントを経験し、組織全体の取り組みに関わるようになりました。
あるとき、ふと振り返って思いました。
「ずいぶん地図が大きくなったな。」
若い頃は、自分が困ったときに誰に聞けばいいかを知るための地図でした。
それがいつの間にか、
誰が何を得意としているのか。
誰が決める人なのか。
誰を助けられるのか。
誰と誰をつなげれば仕事が進むのか。
そんなことまで考える地図に変わっていました。
私はこの頭の中の地図を、
「人間マップ」
と呼ぶようになりました。
人間マップの最初の一歩は「目立っている人」を見つけること

転職したばかりの頃、私はまだ社内の人をほとんど知りませんでした。
そこで最初に意識したのが、
良い意味で目立っている人
です。
技術力がある。
知見がある。
相談しやすい。
影響力がある。
こういう人は、同じチームだけでなく、他のチームでも名前が出てきます。
「あの人に聞けば分かる」
「それなら○○さんが詳しい」
「この件は○○さんに相談した方がいい」
そんなふうに、会話の中で何度も名前が聞こえてくる。
私はまず、そういう人の名前と顔を覚えるようにしました。
組織図を見れば、役割や責任者は分かります。
一方で、技術的な相談を集めている人や、部署を越えて頼られている人までは、組織図だけでは見えにくいことがあります。
だから私は、日々の会話や仕事の流れの中で、
「誰の名前がよく出るのか」
を見るようにしていました。
それが、私にとって最初の地図づくりでした。
キーマンは「知る」だけでなく、関係をつくっていく
名前と顔を覚えるだけでは、仕事上の関係はできません。
そこで私は、接点ができたときをなるべく逃さないようにしていました。
たとえば、偶然同じ会議に参加したとき。
私はチャンスだと思って、積極的に業務の話をしました。
もちろん、無理に距離を縮めるわけではありません。
あくまで仕事の話です。
でも、一度話をすれば顔を覚えてもらえる。
次に会ったときに話しやすくなる。
また、同じチームのメンバーに面識がある人がいれば、仕事上の打ち合わせを理由につないでもらうこともありました。
逆に、相手から自分のチームへ相談が来ることもあります。
そんなときは、できるだけ自分が担当になって相談に乗るようにしました。
正直に言えば、当時は、
「ここで骨を折っておけば、いつか自分が困ったときに助けてもらえるかもしれない」
という打算もありました。
今振り返れば、ずいぶん自分本位な考え方です。
ただ、仕事を続ける中で、関係は単純な貸し借りではなくなっていきました。
人間マップは「頼る地図」から「助け合う地図」に変わっていった
私がキーマンだと思っている人がトラブルを抱えたときは、こちらも全力で一緒に対応しました。
困っているときだけ頼るのではなく、相手が困っているときには自分も動く。
それを続けていると、少しずつ関係が変わってきます。
自分にとって相手がキーマンであるだけではありません。
相手にとっても、自分がキーマンになる。
そんな関係ができていきました。
すると、
何かあれば相談してもらえる。
こちらも相談しやすくなる。
さらに別の人へつないでもらえる。
関係が一方通行ではなくなっていきます。
最初は、
「誰に頼れば自分の仕事が進むか」
を考えるための地図でした。
でも少しずつ、
「誰と助け合えば、もっと仕事が進むか」
を考える地図に変わっていきました。
この人間マップは、紙に書いたものではありません。
私の場合は、すべて頭の中です。
常に仕事で交流するほどの関係になっていくので、名前や得意分野、役割、人とのつながりが自然と頭に染み込んでいきました。
だから私は、人間マップを単なる人脈リストのようなものだとは考えていません。
日々の仕事の中で作られ、更新され続ける地図です。
地図が広がると、商品開発をより広い視点で見渡せるようになる

一つの商品を開発するには、多くの部署が関わります。
自分の担当している開発だけを見ていると、どうしても視野は狭くなります。
でも、さまざまな部署に信頼できるキーマンとの関係ができていくと、
「この工程なら、あの人が詳しい」
「この問題なら、この部署の人に聞けばいい」
「自分では分からないけれど、あの人なら分かる」
ということが見えてくるようになります。
ここで、私が大切だと思っていることがあります。
自分が全部を知っている必要はありません。
誰が知っているのかを知っていることも、一つの力です。
さらに、困っている人がいれば、
「それなら○○さんに相談するといい」
と人をつなぐこともできるようになります。
自分の人間マップが部署を越えて広がっていくほど、商品開発の全工程を以前より広い視点で見渡せるようになりました。
これは、技術知識だけを増やしていては得にくかった視点だと感じています。
管理職になって、人間マップは最大の武器になった
今では、人間マップは私が采配型のマネジメントを実行する上で、最大の武器の一つになっています。
私は、部下に仕事を任せるとき、何でも自分が直接確認するわけではありません。
できる限り本人に任せたいと思っています。
ただし、任せることと放置することは違います。
部下が適切なキーマンと連絡を取りながら進められているか。
困ったときに相談できる人がいるか。
そうした環境が整っているかは意識しています。
ただ、自分一人のアンテナだけでは、どうしても見落とすことがあります。
そこで私は、普段から周囲のキーマンとも助け合える関係を作っておきます。
もし仕事が大きく行き詰まっていたり、本当に危ない兆候があったりしたときには、必要に応じて状況を教えてもらえることもあります。
もちろん、
「この部下を監視してください」
「代わりに指導してください」
という話ではありません。
キーマンにも自分とは違う場所からアンテナを張ってもらい、自分一人では気づけないことを補ってもらう。
私自身も、相手のチームや仕事で困りごとがあれば援助します。
そうした相互の関係があるから成り立っています。
そして、本当に危ないときだけ、自分が介入する。
普段は任せる。
必要以上には口を出さない。
でも、必要なときには助けられるようにしておく。
人間マップがあるから、任せても放置にならない。
これは、管理職になった今、特に強く感じていることです。
人間マップは、立場とともに役割が変わっていった
振り返ると、人間マップは自分の立場とともに変化してきました。
若手の頃は、
誰に頼ればいいかを知る地図。
中堅になると、
誰が責任者か、誰が決める人か、そして自分は誰を助けられるかを考える地図。
管理職になると、
誰に任せるか、誰と誰をつなぐか、どこにアンテナを張るかを考える地図。
になりました。
若手の頃は、自分が動くための地図でした。
今は、組織全体が動きやすくなるよう采配するための地図になっています。
人間マップは、人を利用するためのものではない
「人間マップ」という言葉を聞くと、
人を利用するための地図。
権力者を探すための地図。
人脈を増やすための地図。
そんな印象を持つ人もいるかもしれません。
正直に言えば、私自身も最初は、
「この人と関係を作っておけば、自分が困ったときに助かるかもしれない」
という気持ちを持っていました。
でも、一方的に頼るだけの関係では、助け合う関係にはなりません。
助けてもらったら、自分も助ける。
相手が困っているときには、自分も骨を折る。
それを繰り返しているうちに、
「頼れる人」
が、
「助け合える人」
へ変わっていきました。
さらに、
「誰に聞けば分かる?」
と相談されたとき、
自分が答えを知らなくても、答えを持っている人につなげられるようになる。
その頃には、人間マップは自分だけのための地図ではなくなっていました。
私にとって人間マップは、
人を利用するための地図ではなく、人と人が助け合うための地図
です。
人を見ることは、仕事の全体像を見ることでもある
以前の記事で、私は自分自身への戒めとして、
「技術より人を見ろ」
という言葉について書きました。
技術はもちろん大切です。
でも、技術だけを見ていると、自分の担当範囲だけで仕事を考えてしまうことがあります。
一方で、人を見るようになると、
誰が何を担当しているのか。
誰が決めるのか。
どの部署とどの部署がつながっているのか。
どこに課題があるのか。
仕事の流れそのものが見えやすくなります。
人間マップが大きくなることは、単に知り合いが増えることではありません。
自分の視野が広がることでもある。
私はそう感じています。
まとめ|人間マップは、仕事を前に進めるための頭の中の地図

2010年、転職したばかりの私に社長が言った、
「まずは地図を作りなさい。」
という言葉。
当時は、自分が新しい職場で仕事を進めるための地図だと考えていました。
それから経験を積む中で、その地図は少しずつ変わっていきました。
自分が困らないための地図。
誰に頼るかを知る地図。
助け合うための地図。
人と人をつなぐ地図。
そして今では、
部下に仕事を任せ、組織全体を采配するための地図
になっています。
気づけば、ずいぶん大きな地図になりました。
だから私は、それを「人間マップ」と呼んでいます。
今日の一歩
まず、あなたの職場で、
「よく名前を聞く人」を3人思い浮かべてみてください。
その人は、なぜ名前がよく出るのでしょうか。
何が得意なのか。
どんなときに頼られているのか。
そして、自分はその人とどんな接点を持てるのか。
さらに一歩進めるなら、
自分はその人に何を返せるだろう。
そこまで考えてみてください。
人間マップは、名簿を作ることから始まるのではありません。
人を知り、助けてもらい、自分も助ける。
その積み重ねから、少しずつ頭の中にできていくものだと思います。

