企業DXを進める立場になって、強く感じたことがあります。

それは、

DXが進まない理由は、技術が足りないからだけではない。

ということです。

新しいシステムがないからでもありません。

AIを使っていないからでもありません。

もちろん、技術や仕組みは必要です。

でも、私が実際に企業DXを進める中で、最も大きな壁だと感じているのは、

「変わることへの抵抗」

です。

今までこのやり方でやってきた。

多少不便でも、仕事は回っている。

大きな問題も起きていない。

だったら、無理に変えなくてもいい。

そう考える人は、少なくないと思います。

一方で、

「このままでは競争に負けるかもしれない」

「会社が今のままではまずい」

と危機感を持つ人もいます。

私は今、そうした人たちを各部署で巻き込みながら、少しずつDXを進めています。

その中で強く感じているのが、

企業DXは、ツールを導入する活動ではなく、会社の仕事の仕方そのものを変えていく活動だ

ということです。

人は、うまくいっているやり方を変えたくない

変化には負担があります。

今までの業務を見直す。

新しい仕組みを覚える。

新しいルールに慣れる。

場合によっては、これまで積み上げてきたやり方を捨てる。

しかも、

変えた結果、本当に良くなるかどうかは分からない。

そう考えれば、

「今のままでいい」

と思う人がいるのは自然なことだと思います。

実際、

今のやり方で大きく困っていなければ、

わざわざ変える理由は感じにくい。

少し面倒でも、

慣れている方が楽です。

だからDXを進めるとき、

「新しい方が便利です」

と説明するだけでは、

なかなか人は動きません。

私が感じているDXの壁は、

変える必要性を感じている人と、今のままでいいと考える人の温度差

にあります。

DXを進めていても、最後に向き合うのは人でした。私が仕事の中で「技術より人を見ろ」と考えるようになった背景については、
『技術より人を見ろ』20年以上エンジニアをしてたどり着いた仕事の教訓
で詳しく書いています。

人を変えるより、先に成功例を作る

他人を変えることは難しいです。

でも、

自分が変わることはできます。

だから私は、

まず自分たちから変わることを意識しています。

各部署には、

「このままではまずい」

「もっと良いやり方があるはずだ」

と考えている人がいます。

そういう人たちは、

自ら変えようとする人です。

私は、そうした人たちを推進役として巻き込みます。

DXの目的を共有する。

業務の問題を一緒に整理する。

新しい方法を試す。

うまくいかなければ修正する。

そして、

少しずつ前例を作っていく。

変化に抵抗がある人の中には、

本当に反対している人もいれば、

単純に不安な人もいます。

失敗したらどうしよう。

覚えることが増えたら困る。

今より忙しくなったら嫌だ。

そうした不安があると、

最初の一歩を踏み出しにくくなります。

だからこそ、

成功例が重要です。

同じ部署の人が、

新しいやり方で成果を出す。

業務が少し楽になる。

今まで時間がかかっていた作業が短くなる。

情報が探しやすくなる。

そうした変化を近くで見ると、

「自分もやってみようかな」

と思えるようになります。

私は、

人を説得して変えるより、変わった人の姿を見せる方が強い

と感じています。

DXは、

一気に全員を変えるより、

先に動ける人が前例を作り、

その成功を少しずつ広げていく方が進めやすい。

今はそう考えています。

人は、言われたから変わるとは限りません。自分で気づき、自分から動きたくなる状態を作ることは、人材育成にも共通すると感じています。
エンジニアから管理職になって分かった『人を育てる』という仕事

ボトムアップDXは、合意形成に時間がかかる

私自身は、

企業DXはトップダウンの方が動かしやすいと感じています。

経営層が目的や戦略を決める。

各組織へ方針として展開する。

そこには強い推進力があります。

一方で、

私が現在進めているDXは、

ボトムアップ型です。

DX推進側で未来像を描く。

それを経営層に説明する。

承認を得る。

そのうえで、各部門へ説明する。

理解してもらう。

協力を得る。

一つひとつ積み上げる必要があります。

未来像そのものが、

経営層や各部門と大きくズレているわけではありません。

それでも、

合意形成には時間がかかります。

どれだけ良い構想でも、

どれだけ正しいと思える提案でも、

それだけでは進みません。

なぜ変えるのか。

何を目指しているのか。

変えた先に何があるのか。

経営層にも、

各部門にも、

それぞれの立場で理解してもらう必要があります。

私の場合は、

ボトムアップだったからこそ、

経営層と各部門の理解を一つずつ積み上げる必要がありました。

そして、

方向性が正しくても、

合意形成に時間がかかれば、

DXのスピードは落ちます。

これも実際に進める中で感じている大きな壁です。

サイロ化は、単純に悪いものではない

DXの話になると、

「サイロ化」が問題として語られることがあります。

部門ごとに情報が分かれている。

他部署から見えない。

ノウハウが閉じている。

でも、

私はサイロ化そのものを単純に悪だとは考えていません。

各部門には、

各部門ごとの情報があります。

ノウハウがあります。

機密情報もあります。

それらを部外に出さない運用には、

ちゃんと理由があります。

当時の目的や機密管理の観点では、

合理的な運用だった面もあります。

だからDXでは、

単純に、

「全部オープンにしましょう」

とはできません。

必要な情報を、必要な人が使える状態を目指す

私が目指しているのは、

誰でも何でも見られる状態ではありません。

必要なのは、

必要な人が、必要な情報を、必要な範囲で使える状態

です。

そのためには、

アクセスコントロールが必要です。

守るべき情報は守る。

一方で、

全社で活用できる情報は、

ナレッジとして使えるようにする。

その両立が必要です。

さらに、

情報を使いやすくするためには、

整理も必要です。

どこに何があるのか。

どう分類するのか。

どう構造化するのか。

誰が見られるのか。

そうしたことを決めていかなければなりません。

私は、

サイロを壊すのではなく、守るべきものを守りながら、使える情報に変えていく

ことが大切だと考えています。

理解されてもDXが進まない理由

ここで難しいのが、

DXの目的に理解があっても、

なかなか進まないことです。

ナレッジを整備した方がいい。

情報を活用できる状態にした方がいい。

その必要性は理解してもらえる。

でも、

現場には今の仕事があります。

日々の業務があります。

そこに、

情報整理。

データの構造化。

新しい運用の検討。

といった仕事が追加されます。

直近の負担は、

確実に増えます。

しかも、

DXはやってみないと分からない部分もあります。

本当に効果が出るのか。

本当に業務が変わるのか。

本当に改革につながるのか。

不確実です。

だから、

私はこう感じています。

DXが進まないのは、反対されているからとは限らない。

理解されていても、目の前の仕事と不確実性が変革のスピードを落とす。

PoCは小さく始める。ただし「誰と始めるか」が重要

不確実なものを、

最初から全社展開するのは難しい。

だから、

私は小さくPoCから始めています。

ただし、

小さく始めればどこでもいいとは考えていません。

私が最初の対象として選んだのは、

会社の中でも主力となる部門です。

理由は、

成功したときのインパクトが大きいからです。

さらに、

その部門にはエンジニアが多く、

ITに強い人も多くいます。

一緒に議論できる。

一緒に手を動かせる。

試した結果、

良いのか悪いのかを判断できる。

間違えたと感じたら、

すぐに戻ることもできる。

だから私は初期PoCでは、

現場側にもITや業務改善を理解し、一緒に検証できる人がいる部門

を選びました。

PoCで重要なのは、

単純な規模だけではありません。

誰と始めるか。

そこが大切です。

もし現場側で良し悪しを判断できず、

検証作業のほとんどがDX推進チームへ集中すると、

推進側の負担も増えます。

さらに、

現場にノウハウが残りにくくなり、

自走もしにくくなります。

だから私の場合は、

変えやすい場所より、一緒に考え、一緒に手を動かせる場所

を重視しています。

失敗しない場所を選ぶというより、

間違ったときに、

早く気づき、

すぐに戻れる場所を選ぶ。

それが、最初のPoCでは重要だと考えています。

私がDX推進メンバーに最初に求めるもの

DXという言葉から、

高度なITスキルを持った人が必要だと思われるかもしれません。

もちろん、

ITの知識は役に立ちます。

でも、

私がDX推進メンバーに最初に求めるのは、

ITスキルよりも、

「変えたい」というやる気や熱意

です。

現場の問題に気づく。

このままでは良くないと思う。

何か方法がないか調べる。

分からなければ聞く。

必要なら勉強する。

そして、

自分から動く。

こういう人は、

たとえ最初はITに詳しくなくても、

自分で情報を得ながら動いてくれます。

もちろん、

DX推進チームとして、

必要な支援はします。

少なくとも私の経験では、

技術や知識は後から学べます。

一方で、

主体的に動こうとする姿勢や、

新しいものを面白がる気持ちは、

外から与えるのが難しい。

だから私は、

技術力だけではなく、

その人が本当に、

「変えたい」

と思っているかを重視しています。

DXのように正解が決まっていない仕事へ挑戦することも、仕事を通じた成長の一つだと私は考えています。
エンジニアの成長とは何か?50代になって考える『仕事は自分の成長記録

熱意の次に大事なのは、好奇心

もう一つ、

私が重視しているものがあります。

それが、

好奇心

です。

新しい技術を見て、

「これは何だろう」

と思える。

触ってみたい。

試してみたい。

何ができるのか知りたい。

そんなふうに、

新しいものを面白がれる人は貴重です。

DXでは、

最初から正解が分からないことも多くあります。

だからこそ、

知らないものに触れることを、

怖がるだけではなく、

「ちょっと試してみよう」

と思える人がいると、

前へ進みやすくなります。

私がDXを一緒に進める人を見るとき、

技術力だけではなく、

変えたいと思っているか。新しいものを面白がれるか。

を大切にしています。

新しい技術を面白がれることは、DXを進めるうえでも大きな力になります。新しい技術を学び続けるために私が意識していることは、
新しい技術の勉強が続かない理由|学ぶだけで終わらせない方法
で詳しく紹介しています。

AIも、DXを実現するための手段の一つ

AIは、

企業DXを進めるうえで、

非常に有力な手段の一つです。

実際、

私自身も企業へのAI導入を進めています。

ただし、

AIを使うこと自体がDXではありません。

AIは、

あくまで手段の一つです。

会社が何を実現したいのか。

そのために、

AIが有効なら使う。

別の方法が良ければ、

別の方法を選ぶ。

それでいいと思っています。

大切なのは、

手段ではなく、

目的です。

AIは企業DXを進めるうえで有力な手段の一つです。実際に企業へ生成AIを導入する中で感じた、人・ルール・組織の壁については、
企業に生成AIを導入する側になって分かったこと
で詳しくまとめています。

まとめ|企業DXで実現したい目的を忘れない

企業DXを進めていて、

私が一番大切だと思っていることがあります。

それは、

企業DXで実現したい目的を忘れないこと。

です。

企業DXと言っても、

会社ごとに実現したいことは違います。

顧客満足度を上げたい。

意思決定を速くしたい。

過去の情報をナレッジとして活用したい。

新しいビジネスを生み出したい。

競争力を高めたい。

その会社ごとに、

ゴールは違います。

だからこそ、

最初に考えるべきなのは、

何を実現できれば、DXは成功と言えるのか。

ということです。

その核心を決める。

そこから、

手段を考える。

AI。

クラウド。

新しいシステム。

新しい業務プロセス。

研修。

外部サービス。

何を使うかは、

そのあとです。

そして、

手段の選択肢を増やすために、

学び続けることも必要です。

新しい技術。

ニュース。

研修。

セミナー。

さまざまな情報に触れて、

選べる手段を増やしていく。

私は、

それもDXを進める人の重要な役割だと思っています。

DXを進めるうえでは、便利な技術を入れるだけでなく、安全に使うルールも必要です。生成AIを仕事で使うときの具体的な注意点は
生成AIを仕事で使うときに注意すべきこと|企業利用で考えたいポイント
で整理しています。

今日の一歩

もし今、

自社でDXを進めようとしているなら、

まず一つだけ考えてみてください。

3年後、会社の何が変わっていれば、DXは成功と言えるのか。

導入したいツールではなく、

変えたい会社の姿を書く。

そこから、

必要な手段を考える。

DXで何を実現したいのか。

その核心を見失わないことが、

私は一番大切だと考えています。