企業に生成AIを導入する側になって分かったこと

企業に生成AIを導入する仕事をするようになって、最初に感じたことがあります。
それは、
技術より、人の方が難しい。
ということです。
AI導入でも、結局最後に向き合うのは人でした。私が仕事の中で「技術より人を見ろ」と考えるようになった背景は、
『技術より人を見ろ』20年以上エンジニアをしてたどり着いた仕事の教訓
こちらの記事で詳しく書いています。
生成AIそのものは、使ってみれば便利です。
文章作成。
議事録。
プログラミング。
プレゼン資料。
データ分析。
いろいろな業務で使えます。
でも、企業の中にAIを広げようとすると、
「便利だから使いましょう」
だけでは進みません。
機密データは大丈夫なのか。
AIに入力した内容は学習されないのか。
情報が漏れるのではないか。
AIは信用できるのか。
社員によって、ITリテラシーも大きく違います。
プライベートでもAIを使っている人は、すぐに使い始めます。
一方で、ITが苦手な人は、
「AIは怖い」
「よく分からないから使いたくない」
というところから始まります。
導入する側としては、
使える人だけが先に進めばいい、
とはできません。
使わない人を置いていかない。
安心して使える環境を作る。
使ってみたいと思えるきっかけを作る。
そこまで含めて、AI導入なのだと感じています。
そして、もう一つ。
企業にAIを導入する立場になって、強く思うようになったことがあります。
AI導入は手段であり、目的ではない。
この記事では、実際に企業で生成AI導入を進める中で、私が感じたことを書いていきます。
最初の壁は「AIにデータを渡して大丈夫なのか」

生成AIを社内で使おうとすると、最初に出てくるのが、
セキュリティへの不安
でした。
「AIに入力したデータは漏れないのか」
「学習に使われるのではないか」
「会社の機密情報を入れて大丈夫なのか」
こうした声は多くありました。
企業にとって、情報は資産です。
顧客情報。
技術情報。
社内文書。
過去の開発資料。
経営情報。
こうしたものを扱う以上、不安が出ること自体は当然だと思います。
私は、
「大丈夫だから使ってください」
と説明して終わらせるのではなく、
まず安全に試せる範囲を作る
ことから始めました。
機密レベルの低いデータを使う。
そこで実際にAIを使ってもらう。
便利さを体感してもらう。
まずは、
「AIってこんなことができるのか」
と知ってもらう。
そこから少しずつ、利用範囲を広げていきました。
生成AI導入で最初に必要だったのは、
ツール選定より、
安心して触れる環境を作ること
だったと感じています。
機密レベルを棚卸しし、「使ってよい範囲」を明確にした
幸い、私の会社には全社共通の機密レベルの定義がありました。
そこで、各部門に、
「自分たちが扱っているデータは、どの機密レベルなのか」
を棚卸ししてもらいました。
そのうえで、
どのレベルまでならAIに利用してよいか。
どの情報は入力してはいけないか。
境界を整理しました。
そして、そのルールを経営層にも説明し、承認を得てから全社へ展開しました。
ここはかなり重要だったと思っています。
社員一人ひとりに、
「これはAIに入れていいのかな」
と毎回悩ませる状態では、利用は広がりません。
逆に、
ここまでは使っていい。ここから先はダメ。
が明確なら、判断しやすくなります。
AI導入の前に必要なのは、
社員自身が、何を入力してよいか判断できる状態を作ること。
だと思っています。
AIガイドラインは「縛るため」ではなく「安心して使うため」に作る
あわせて、AI利用のガイドラインも策定しました。
何をしてよいのか。
何をしてはいけないのか。
どこまでのデータを使えるのか。
どんなことに注意するのか。
それを明文化しました。
ここで大事にしたのが、
社員に自己責任を押し付けないこと
です。
「気をつけて使ってください」
だけでは、使う側は不安です。
もし何か起きたら、自分の責任になるのではないか。
そう思えば、
「だったら使わない方が安全だ」
となります。
だから、
決められたルールを守って使っているのであれば、個人に責任を押し付けない。
という考え方を明文化しました。
私は、ガイドラインはAI利用を止めるためのものではないと思っています。
むしろ、
安心して使える範囲を示すためのもの
です。
ルールが明確になることで、
「この範囲なら使っていいんだ」
と社員が安心して一歩踏み出せる。
それが、利用を広げるうえで大きかったと感じています。
使い始めれば、便利さはすぐに伝わった

実際に使い始めると、
AIの便利さを感じるまで、それほど時間はかかりませんでした。
文章作成。
議事録。
プログラミング。
プレゼン資料。
データ分析。
用途は多岐にわたります。
中でも、私が特に効果を感じたのが、
大量のデータを整理して、傾向を見つけるような業務
です。
たとえば、アンケートデータ。
アンケートそのものは簡単に実施できます。
でも、その後の集計にかなりの時間がかかります。
回答を整理する。
分類する。
傾向を見る。
コメントをまとめる。
この作業だけで、多くの時間を使っていました。
でも、本当にやりたいことは、
集計そのものではありません。
集計結果を見て、何が言えるのかを議論すること。
そこから、
何を改善するのか。
どんな行動につなげるのか。
を考えることです。
AIを使って前処理や傾向把握を効率化できれば、
人はその先の、
考える仕事
に時間を使えます。
AIの価値は「時間短縮」より、その先にある
プレゼン資料も同じです。
プレゼン資料を作ると、
内容以上に、
デザイン。
配置。
フォント。
見栄え。
細かな調整。
こうした部分に時間を使うことがあります。
もちろん、見やすさは大切です。
ただ、そこにこだわりすぎると、
本当に伝えたいことを考える時間が減ってしまいます。
そこで、
デザインや細かな調整をAIに任せる。
人は、
何を伝えるのか。
なぜ伝えるのか。
相手にどう行動してほしいのか。
そこに集中する。
結果として、
資料作成の時間が短くなるだけでなく、
プレゼンそのものの質も上げられる
と感じています。
私がAI導入で価値を感じているのは、
単なる時短ではありません。
AIは、人が本来考えるべき仕事に時間を戻してくれる。
そこに大きな価値があると思っています。
身近な成功体験が「使ってみたい」に変える
AIを導入すると、
すぐに使う人と、
なかなか使わない人に分かれます。
最初から興味がある人は、
自分でどんどん試します。
でも、
AIを信用していない人。
ITそのものが苦手な人。
今までの仕事のやり方を変えたくない人。
そういう人に、
「研修を受けてください」
と言うだけでは、なかなか動きません。
そこで私は、
チームごとに有効な使い方を共有する活動
を促しました。
同じチームの人が、
AIを使って短期間で質の高い成果を出す。
その姿をすぐ近くで見る。
すると、
AIが急に自分事になります。
「自分も使ってみようかな」
「自分の仕事にも使えるかもしれない」
そう感じる人が出てきます。
私は、
身近な成果が、AIを自分事に変える
のだと思っています。
そして、
「自分も使いたい」
「どうやったらできるのか知りたい」
という状態になってから、
教育や助言が意味を持ちます。
質問が増える。
試す回数が増える。
失敗しても、
もう一度やってみようと思える。
だから私は、
使わせることより、自分から使いたい状態を作ること
の方が重要だと感じています。
人は、言われたから動くとは限りません。自分で気づき、動きたくなる状態をどう作るかは、人材育成にも共通すると感じています。
「エンジニアから管理職になって分かった『人を育てる』という仕事」
教育が効くのは、
本人が、
「使いたい」
と思ったあと。
これはAIに限らず、新しい技術を社内へ広げるときにも共通することかもしれません。
経営層には「AI導入」ではなく「会社がどう勝つか」を説明する

生成AIを経営層へ説明するとき、
私は、
AIによる業務効率化だけを最大の訴求点にはしませんでした。
もちろん、効率化は重要です。
実際に効果が出る業務も多くあります。
でも、
AIを入れて作業時間を短くすること自体が、
経営の最終目的ではありません。
経営層が考えているのは、
競争にどう勝つか。
どう利益を出すか。
どう企業を成長させるか。
どう永続させるか。
ということです。
だから、
AI導入の話をするときも、
私はその先にある、
企業DX
を見ます。
さらにその先には、
経営改革があります。
AIは、
その未来を実現するための手段の一つです。
経営層に、
「AIを入れましょう」
と提案するのではなく、
会社がどう勝ち続けるのか。そのための基盤をどう作るのか。
を提案する。
その中に、AIがある。
私はそう考えています。
過去の資産情報を、ナレッジとして武器にする
企業には、長年蓄積してきた情報があります。
技術資料。
設計情報。
過去のトラブル。
成功事例。
失敗事例。
顧客の声。
会議資料。
業務ノウハウ。
これらは、本来かなり価値のある資産です。
でも、
情報が分散している。
どこにあるか分からない。
誰が持っているか分からない。
検索できない。
一部の人しか知らない。
という状態では、十分に活用できません。
私は、
過去の資産情報をナレッジとして使える状態にすること
が、企業DXの大きなテーマだと考えています。
必要な人が、
必要なときに、
必要な情報へアクセスできる。
これが、私がここでいう
データの民主化
です。
つまり、
必要な人が必要なデータにアクセスし、業務や意思決定に使える状態
を作ることです。
さらに、そのデータを経営判断にも使える。
いわゆるデータドリブン経営です。
そうした基盤ができれば、
会社が持っている情報そのものを武器にできます。
AIは、
その情報を探したり、
整理したり、
分析したり、
活用したりするための手段の一つです。
ここまで来ると、
AI導入の話は、
単なるツールの話ではありません。
経営の話
になってきます。
AIを「使う」から「マネージメントする」へ
AI導入を始めた頃と、
今とでは、
私自身のAIに対する考え方もかなり変わりました。
何より、
進化が速い。
AIのように変化が速い分野では、学び方そのものも変える必要があります。新しい技術を学び続ける方法については、
50歳でも新しい技術を学び続ける|20年以上エンジニアを続けて分かった効率的な勉強法
でも詳しく書いています。
導入を始めた時点で感じていた性能と、
今感じている性能には大きな差があります。
以前は、
「便利なツール」
くらいに考えていました。
でも今は、
単純なツールとは少し違う感覚があります。
私は今、
AIから成果を引き出す行為を「マネージメントする」と捉えるようになりました。
AIは人間ではありません。
責任を取る主体でもありません。
それでも、
仕事を任せるときの考え方には、マネジメントと似た部分を感じています。
何のためにやるのか。
背景は何か。
必要な情報は何か。
どこまで任せるのか。
どんな成果を期待するのか。
出てきた結果をどう評価するのか。
問題があれば、どう修正するのか。
私は、AIに仕事を任せるとき、次の5つを意識しています。
目的を伝える。
必要な情報を渡す。
任せる範囲を決める。
成果を評価する。
必要なら修正させる。
雑に依頼する。
前提を伝えない。
目的を伝えない。
期待値を曖昧にする。
そうすると、
出てくる成果物も期待とはずれやすい。
逆に、
背景や目的を丁寧に伝え、
結果を見ながら対話を繰り返すと、
かなり質の高い成果物が得られるようになったと感じています。
これは、
人に仕事を任せるときにも似ています。
ただし、
ここには大きな違いがあります。
AIが出した成果を最終的に評価し、判断し、責任を持つのは人間です。
AIが高性能になっても、
そこをAI任せにはできません。
だから私は、
これから必要になるのは、
単なるプロンプトテクニックだけではなく、
AIに仕事を任せ、成果を引き出し、その結果を評価する力
だと考えています。
AIを操作するというより、
AIをマネージメントする。
今は、そんな感覚に近づいています。
AIに仕事を任せる感覚は、人に仕事を任せるときと似ています。私は、部下への仕事の任せ方について、
部下に仕事を任せる方法|失敗させないことより、自分で決めてもらう
で詳しくまとめています。
まとめ|AI導入は手段であり、目的ではない

企業に生成AIを導入する側になって、
いろいろなことが分かりました。
セキュリティへの不安。
社員ごとのITリテラシー差。
使う人と使わない人の差。
教育。
ルール作り。
成功事例の共有。
経営層への説明。
AIへの仕事の任せ方。
どれも重要です。
でも、
一番忘れてはいけないと思っていることがあります。
それが、
AI導入は手段であり、目的ではない。
ということです。
AIによって、
業務を効率化できる場面は多くあります。
でも、
それだけをゴールにはしない。
その先に、
何を実現したいのか。
顧客満足度を上げたいのか。
過去の資産をナレッジとして活用したいのか。
データに基づいて経営判断できるようにしたいのか。
新しいビジネスを生み出したいのか。
目的を明確にする。
そこに至る道筋を考える。
そのうえで、
AIが最適ならAIを使う。
別の手段の方が良ければ、それでもいい。
大事なのは、
AIを使うことではなく、目的を達成すること。
私はそう考えています。
今日の一歩

もし今、
「社内にAIを導入したい」
と考えているなら、
一度、
AIという言葉を使わずに、解決したい課題を書いてみてください。
顧客満足度なのか。
情報共有なのか。
人手不足なのか。
意思決定の速度なのか。
新しい価値の創出なのか。
まず目的を決める。
そのあとで、
その目的を達成する手段として、本当にAIが最適なのか。
を考えてみる。
目的を明確にして、
そこに至る道筋を把握する。
道に迷わない。
それが、企業にAIを導入する側になって、私が一番大切だと感じていることです。
